春の日に。冬物語
18
 用が済んだらとっとと帰る。外に出た時は、もう日がてっぺんまで昇っていた。
「あちゃ〜、もう昼ですよ〜」
 暑そうに手をぱたぱたするが後ろの木田を見る。そうか腹が減ったな、というかと思いきや、
「ああ」
 と一言ですんでしまった。不思議に思った
 しかし、それより気になることがあって尋ねてみた。
「そう言えば木田先輩、そんな捨てる寸前のシューズ、なんであんなに一生懸命探してたんですか?」
 確かにずっと探していた割には、捨てても仕方ないボロだと言った。何か変だ、と思ったので聞いてみた所、木田は見たことのない程の暗い表情で答えた。
「これな、オレが初めて試合に出た時に買ったシューズでさ。それからずっと履き潰すまでつかってたんだ。幸い、足の大きさはあまり変わらなかったから、何年かこれで行けたんだ」
 の記憶では、木田先輩にあった時には確かに、赤のラインが入った白のシューズだったような気もする。あの時からのものかとも思うが、同じようなものは沢山あるからはっきり言えない。
「それで、試合毎には必ずこれを持って言ったんだ。これがあると毎回調子よくてな、忘れた日に限って試合に負けてたんで、履かないでも手放したくなかったんだ」
「…」
 は黙ってしまった。だからあんなに探してたんだ、と思うと、なんでもっと真剣に手伝ってやらなかったんだろうと考えた。
「大事にしていたつもりが、こんなんなっちまうとはな…」
 泣かないまでも、寂しそうな木田の声色。
 こんな木田先輩は始めてみた。は、自分の至らなさ、木田への同情心から涙を流してしまう。
「ごめんなさい、木田先輩! 私、そんな事情、全然知らなくて…面倒くさがって…」
 涙で言葉を詰まらせてしまう美樹もつられて、何も言わないまま瞳をうるませる。静寂が、岩場を進む三人のあたりを包み込む。

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