春の日に。冬物語
17
 最後に、木田が明るく言った。
「オレは、オレのシューズを探しにきたんだ。赤のラインが入った、白いシューズ」
 当てにしてないのか、あるならすぐに出てくるだろうと思ったのか、実に気楽に問いかけた。本人がこうなので、美樹も、何だか表情が軽い。
 しかし、SAMの面々は、木田の明るさと対照的に暗い口調で返答をした。
「あ、あれのことかあ」
「多分、これのことやろうが…」
 思い出したように茂人が口を開き、悩みながら英人が大きなテーブルに戻る。その間、翔人は黙ったままだ。
 英人はテーブルの上に乗っていた包み紙を持ってくると、木田の前において包みを解いた。
「もう、面影も残ってないでぇ…」
 インク臭い包み紙の上には、黒く染まった、靴の形をした塊が乗っていた。
「なっ…」
 が言葉に詰まり、美樹の表情が硬くなる。翔人も済まなさそうな顔を見せる。
「僕が間違って捨ててしまったんだ…」
 ゴミにして、そのまま焼却炉へ。そこからようやく英人が見つけ出し、持って来た所だそうだ。焼けた直後なら何とかなるのではないかと思ったらしいが、結局、何もできないままだった。
「このタイプのシューズ、すごい珍しい型でな、今ではもう生産されていないんだ。それで戴いちまったんだが…」
 盗んだことより、このシューズのありさまに対して済まなさそうだ。このまま返すのが怖いのではなく、コレクター心理として申し訳ない、と言った感じだ。こうなると、にとっては許すわけにはいかない。怒ってやろうとしたが、それを止めたのは木田の豪快すぎる笑い声だった。
「ハッハッハ! 気にするなよ、元々ぼろいシューズじゃねえか。仕方ねえ、この黒いかたまり、返してもらうぜ!」
 包んであった紙でもう一度包み直し、ジャージの小脇に抱えてしまった。おかげで周りの雰囲気も、明るく照らされる。
「そうか〜」
「悪かったなぁ、ジャージのアンちゃん」
「この人、女だよ。兄ちゃん」
 和気あいあいとする部屋の中。SAMがほっとしたのもつかの間、の痛い一言が襲いかかる。
「後日、ここを風紀委員会で調査しますので、そのおつもりで。盗んだものを集めるなんて、言語道断ですからね!」
 厳しいに、SAMも苦笑い。
「いたた〜」
「まあ、確かにそうだからなあ」
「だからもうやめようって言ったんだよ、兄ちゃん」
「何、自分だけいい子ぶっとるんや、翔!」
 何か兄弟げんかが始まりそうになったので、達は退散することにした。木田が参加したそうな状況ではあるが、今回は珍しくの後をついてくる。美樹もしゃべりながらをおうようについて行く。そのせいか、前方の人の気配には気付くことが無かった。
 帰りも同じような薄暗い廊下を進むことになる。隠された扉は、内側から見ると変哲のないドアと同じように見えた。

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