春の日に。冬物語
10
「日山君、もう少しで君の受け持ちも終わるし、手伝ってあげたらどうだい?」
 話を聞いていたらしい、近場の先輩風紀委員が、離れたまま声をかけてきた。捜し物を手伝う義理は風紀委員にはないが、友人として手伝うのは構わないという事だろうか。
「う〜ん」
 余計な事を。木田先輩は、そうだそうだとうなずいているし。ちょっと待って、私の授業はどうなるの、そう言いたげなが口を開く瞬間だった。
「いやあ、今すぐ探したいから、一人で行く事にする」
 先に木田が、うなずきながらも仕方なさそうに、言う。
「そうですか」
 それは良かった、はほっと胸をなで下ろした、つもりのところに木田の言葉が突き刺さる。
「それじゃあ、は後で手伝いに来てくれって事で! じゃあな!」
 明るい顔で、勝手な事言い残して総合校舎の裏、裏山に向けて走り去っていった。後でそっちに行けという事かい。は、ぶー垂れたくなった。
「面白い先輩だな。まあ、手伝ってやりなよ日山君」
 先程の先輩風紀委員が笑いながら、言った。
 無責任な事を〜。授業に出なかったと言って後で怒られるの、私なんだから!
 ぷんぷんな。腹が立ったから、行かないでやろうかと思う。足下の小石を軽くけとばしながら、見回りを続ける。
 それでもしばらくは何の異変も見られなかったため、業務に支障はなかったようだ。が不機嫌だろうが怒っていようが、何ともない。ただ、何事もなく時間が過ぎようとしていた。
「のどかだなあ」
 腹に一物こさえてたも、何だか気分が落ち着いてきた。それでも、後で木田先輩の後を追うかどうかで悩まされるとなると、気が重いが。
 どうしてやろう。そのことを考え始める。
「どかんかい!」
 突然、背中から声が聞こえた。それも、胡散臭いどこぞの方言だった。一体何事か、と思って後ろをふりかえると、よりは大きい影が覆う。
 影は、どうも怪しそうな顔の男子生徒だった。顔だけ見ると、チカンかなにかにみえるような顔ではあるが、そういう事は問題ではなさそうだ。
「何ですか、あなたは!」
 が叫ぶ前に、既に横を走り去っていた。変な方言男は、大事そうに何かを右腕に抱えて、ちらりと背後のを一瞥して裏山方面に去っていった。
「やかましいわ、ドチビが!」
 吐き捨てた、罵り言葉。どうにも精神不安定なには、絶大な起爆剤となる。もう、許さない。風紀委員として、そして一生徒として。授業の事も、果ては委員会の任務の事も頭からすっぱり消え去ってしまった。
「ちょっと待ちなさい、そこの変なしゃべりの生徒さん!」
 足はもう、彼が逃げ去った裏山へと向けられていた。考えるより早くに、行動。そんな性癖、発動。
 先輩風紀委員は、いつものことかのようにあしらい、聞こえるかどうかもわからない注意をかけていた。
「早く戻ってきなよ、日山君」
 明らかに、気のない言い方であった。
 むろん、の耳には届くはずのない言葉であった。そのころには、前方に集中をむけていたから。

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