春の日に。冬物語

 目を閉じたくなるような日の光。まぶしい明かりを頭上にした、グラス学園総合校舎前の広場。中等部校舎の奥、高等部校舎の周りにまばらに生徒がいるだけの昼前。こんな早い内から風紀委員として、は目を光らせてうろついている。
 こんな事はそうそうなかった。それもそのはず、中等部では授業中の時間。高等部では生徒一人一人の授業時間が違うので、校舎から出ている事は珍しくない。だから、この時間は高等部の風紀委員が見回りを担当するのが通例になっている。しかし、今日に限って高等部の一人が病気に倒れてしまったので、中等部のが代わりをさせられている。普通は有り得ない事だが人手不足の風紀委員、仕方無しの特別措置であった。の委員会での実績や授業理解度、病欠した委員の意志もあり、お鉢が回ってきたのだった。
「あ〜あ」
 それだけは先輩達の信頼が厚いのだが、当の本人にとっては面倒な話だ。今日はせっかく好きな体育だったのに、そう思うと、嫌いな数学の時にしてほしかったなあとつくづくとぶつぶつと愚痴愚痴たれる。
「なんで私なんだろうなあ」
 そこへ、先輩風紀委員の声が飛んできた。
「はいはい、しっかり仕事をしましょう日山君」
 やる気が無いのがばれたようだ。度胆を抜かれたは焦って振り返り、しどろもどろに返事をする。
「あ…、はは、はい! 先輩!」
 慌てふためくを見ると、さっさと向こうへ行って見回りの続きをおこなう先輩風紀委員。何だかは、ばつが悪くなってしまう。
 聞こえちゃったかなあ。
 今更、後悔しても仕方ない。さっさと気を取り直して、見回りに気合いを入れよう。は鼻息を一つ噴き出し、目つきを鋭くして辺りを見て回った。
 と、そこによく見る影が一つ、目に入った。
「おお〜い、〜!」
 高等部の女子校舎から元気よくかけてくるジャージは、紛れもない木田先輩。今日もくせ毛の、ポニーテールに似た、ただまとめた髪が揺れている。
「あ、木田先輩!どうしたんですか?」
 中等部では授業中だとしても、高等部ではその限りではない。生徒によって、授業の時間帯が違うのは、先刻説明した通り。ゆえに、木田先輩がここに来る事に疑問を感じることはなかった。
「ああ、ちょっと頼みがあってさ」
 走ってきた割には、息も切らせず平常通りに言葉を発する木田。その木田が、何だかにこにこと機嫌が良さそうな顔を見せている。どういう事だろうか。
「頼みですか? 私は風紀委員の仕事の途中ですよ」
 見ての通りです。そう言ってやりたいものだが、果たして通じているかどうか。
 ところが木田は、気にもせずに話を続けた。
「急ぎの用事でさ、探して欲しいものがあるんだ」
 聞いちゃいない。なんて人だと思って、は怒鳴り飛ばす。
「だから、私は風紀委員の仕事ですって!」
 すると木田は一度すねたように口を尖らせるが、すぐに切り返す。
「まあ、これも風紀委員の仕事じゃないかな、と」
 確かに、風紀委員は生徒達が困ったら相談するような委員ではある。しかし、何でも頼みを聞く便利屋ではない。あくまで、学園の秩序を守る為の機関なのだ。
 は一つため息をついて、そのことをみっちりと説教してやろうと思った、その時だった。

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