春の日に。冬物語

 それにしても、自分の部屋の住人達には頭を悩まされるものだ。
 門限ぎりぎりに部屋に帰ってきては、ため息をつく。なぜ、こんなに部屋が汚いのか、と。
「あら、ちゃんお帰り〜」
 ゴミの海になったように散らかったカーペットの上に寝そべりながらスナック菓子を口にしてファッション雑誌を読みふける、だらしない格好をした女の子。緑色の髪をした彼女が本から目を離さずに、たった今部屋の扉を開いたに声をかけた。
 最低限の下着だけを身につけ、お菓子の食べかすにその肌を汚し、鼻歌を歌いながら雑誌のページをめくる彼女。はそこへ、強く扉を閉めながら鼻息荒く、足音を立てて近づいた。
「川下先輩!」
 天井の明かりを遮断するかのように立ちはだかるに、川下は渋々顔を上げた。
「なぁにちゃん?」
 困っていそうだが、しかし笑顔を忘れぬ川下に、のカミナリが落ちる。
「なぁに、じゃありません! またこんなに散らかしてぇ。それにその格好、いくらなんでも恥ずかしいとは思わないんですかっ?」
 やっぱりの顔は怒った顔だ。それでも川下はにこやかに笑顔で返す。
「ごめぇん、ちょっと散らかっちゃった。でも、ミキちゃん、別に恥ずかしく無いよぉ」
 そうもいいながら、菓子に手を延ばす美樹。この態度に、は仕方なさそうにため息をついた。
「これがちょっとですか? 全くもう…」
 愚痴をこぼしながら、とりあえず目立つゴミだけでもゴミ袋に入れ始めた。そうなると美樹もばつが悪そうに、身の回りだけでもゴミを集め始める。
「こんな時間にお菓子なんて口にして。夕食はどうするんですか」
 チョコレートの包み紙をつまみあげながら、呟いたかのように、美樹に尋ねた。美樹は解答として、手にした袋のお菓子を口にほおばった。
「食べないからいいよぉ。ちゃん、食べに行っておいでよぉ」
 食べ物を口に入れてしゃべるとは行儀の悪い。おかげで聞き取りにくかったが、何を言おうとしたのかは伝わったので、あえて注意しなかった。そのかわり、別の事を忠告しようと考えた。
 はゴミ袋を美樹の前に置く。そして部屋の扉の取っ手を握り、美樹に振り返る。
「お菓子ばかり食べてたら、体に悪いですよ」
 当たり前といえば当たり前だが、美樹の場合は度が過ぎているため、は呆れた口調でこう言った。一体いつ、まともな食事をとっているのだろうか。ちょっとだけ心配だ。
 ところが、言われた美樹は反省の色も見せずに、何を思ったのか立ち上がって自前の胸を持ちあげた。
「だ〜い丈夫。ミキちゃん、こう見えても発育がいいんだからぁ。ちゃんと違って」
 どうやら何か勘違いしているようだ。
 困った人だ、そう思うが、考える前にの口は開いた。
「余計なお世話です! 第一、誰もそんなこと言って無いでしょう!」
 顔を赤くしたまま怒鳴り散らした。の割には美樹の顔色は相変わらずだ。
「怒っちゃ、いや〜ん」
 明らかにからかわれているのがわかるが、はもう怒る気力が残って無かった。
「怒ってなんか、いません!」
 バタン、と音を立て、扉を閉じてが出ていった。美樹はというと、相変わらず笑顔でを見送っていた。はむくれ面。
 は、腹が減っていたのもあってか、足音を立てて早足で食堂へ向かっていった。どうにも気が立っていることは、自身にも理解できていたが、こういう性分なので仕方ないとも理解していた。理解、というよりは何となくそう感じていた、という方が正確であろうか。怒りっぽくて思ったことをすぐ表に出すくせに、いちいち他人におせっかいを焼くからか、と。

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