春の日に。冬物語

 こうやって服装に関して風紀委員の自分がとやかくいうのが、くだらないといえばくだらないだろう。それは自分だって、動き易かったり気に入った格好だったりした方がいいのはわかっている。だけど規則で決められた事。できれば自分から規則を守って欲しい。規則自体が気に入らないのなら、どうしても違う格好をしたければ、規則を守りつつ反発していくべきだと思う。規則を守らなかった人の作った規則など誰も守らないだろうし、また規則が無ければ別の問題になる。
「…」
 そんな事をはいいたいのだが、風紀委員という任務では、規則に反した生徒に注意を与える事しかできない。それに、思った事をうまくいえるかどうかもわからない。だからというわけでもない、事も無いが、は妥協して風紀委員に属したままなのだ。こんな考え方になったのも、風紀委員だったからというのもある。
「…ん」
 たまに難しい事を考えると、頭の中がごちゃごちゃして、何を考えているかわからなくなる。慣れない事をしない方がいいなと思うが、風紀委員としてやっていく以上、無責任な事ではいけないとも思う。少なくとも、風紀委員として意義のある行動をとりたい。その行動自体すら、どういったものかわからないのだが、それでも何かしなければ気が済まない。
「…ま君」
 また頭が痛くなってきた。考えるより動く事を信念としていたが、それは自分で考えるという行為から逃げていただけなのかもしれない。ああ、また頭が痛くなってきた。
「日山君!」
 痛めた頭の中に、怒鳴り声が飛び込んできた。慌てて返事をする。
「は、はい!」
 顔を上げて声のもとを探ると、校門近く下校中の生徒の群衆から、一人の男子生徒がこちらに向かってくる。
「何をボーっとしているんだ?」
 の、先輩の風紀委員だ。左腕にはと同じように風紀委員会の腕章が光る。
「す、すみません」
 すぐに謝るに、先輩風紀委員はくるりと背を向けた。
「手が空いているなら手伝ってくれ。ただでさえ忙しいんだから」
 重過ぎず、少し低い声が耳に聞こえた。
「はいっ、今、行きます!」
 元気よく答える。
 いつかはわかってくれるだろう。藤沢君も木田先輩も、そして他のみんなも。風紀委員はみんなを苦しめるためにいるのでは無く、みんなを安心させるためにいるのだと。確かに個人個人で考えればうざったい存在かもしれないが、全体で見れば安全を確保するために動いている事。それを実証するためには、風紀委員としてしっかり役目をこなさねばならない。さて、これから忙しくなるぞぉ。
 満面に笑みを浮かべた、その背中に、凍るように冷たい何かを感じたが、後ろを振り向いても何も無いのは当然といえば当然だった。


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