ある日に。冬物語
23
 なんて言ってる所に、美樹が戻ってくる。
「はぁ〜い、お待たせ〜」
 四つのカップを一辺に持ってくる美樹。おかげで危なっかしい。無理はないのだが、右堂がひったくるように取りに来るから危なっかしい。
「…」
 案の定、右堂の動きは速く、の隣にいたのがいつの間にやら美樹のもとに行きカップを取り、再び部屋のすみで窓をみる。早業だ。
「ありがとうございます〜」
「おう、わるいな美樹!」
「うん、悪いよぉ」
 てな事で、ようやくおかわりがやって来た。一番喜んでるのは、多分、右堂さんだろうけど。
「いただきます〜」
「おう!」
 早速ココアに口をつける。何かちょっと違和感があるが、気にならない。
「あの…」
 カップから口を離し、木田に話しかけた。ところ、驚愕の出来事が起こった。
「う〜ん」
 ジャージがカップを置いて、後ろへ倒れてしまった。一体どういうことか、木田はココアを一口含んだだけなのに。
「どうしたんですか、木田先輩っ?」
 は驚いてちゃぶ台を両手で叩き、膝で立ち上がる。それでも木田は、倒れたままだ。右堂は全然気にせずにココアを飲み続けている。
「だ〜いじょうぶよぉ、ちゃん。きゃはははは」
 更に、ケタケタ笑う美樹。どういうことか、全く分からないまま、の頭はだんだん重くなり、沈んでいく…。
「どこが大丈夫なんですかぁ〜?」
 よく見れば、美樹の顔が赤い。そう言えば、顔が熱くなっている。どういうことか。
「ちょっとコレ入れただけだからぁ〜。きゃはははは」
 笑いながらココアをのみ、コレを差し出す美樹。コレとは、ブランデー・アルコール分37%とかって書いてある。
「こ、これ、お酒じゃないですかっ?」
 なんて物を入れるんですか! といいたかったが、それもかなわず口をパクパクさせている
「だいじょうぶよぉ〜、ちょっとだけだからぁ。きゃはははは」
 変わらず笑い続ける美樹。変わらず眠り続ける木田。変わらずココア飲み続ける右堂。風紀委員としたことが、何てことだ。
「なんて事するんですかっ?」
 怒らずにはいられない。でも、美樹は笑ってる。
「ちょっとした冗談よぉ、きゃはははは」
 冗談にしては、質が悪い。怒鳴ってやろうとするが、にはもう、そんな力が残っていないようだった。
「冗談じゃありません…」
 力なく声が小さくなっていく。もどうやらダメなようだ。どこからこんなものを持ってきたんだ、この人は。
「ありゃあ、ちゃん、ノックアウト。きゃはははは」
 KOもなにもない。頭を落とし、ちゃぶ台に額をぶつけ、そのまま気絶してしまった。
「全く、もう…」
 この言葉は、発せられなかった。
 熱い〜。
 子供にお酒飲ませるな〜、って、川下先輩も子供じゃない。何考えてるんだろ。
 どうでもいいけど、右堂さんは平気なのか。
「ありゃあ、寝ちゃったねぇ。だらしなぁい、きゃはははは」
 二人も床に伏せさせといて、何たる言いぐさ。さすがの右堂も、鋭い釣り目で戒める。
「…どこがちょっとだ…」
 ちょっとどころか、ほとんど酒でココアを溶いてある。いたずらにしては、行き過ぎだな。そんな言葉が、言い方から取れる。
「ごめぇん、やり過ぎちゃったぁ。きゃはっ」
 舌を出してかわいく笑顔の美樹。そんな顔でごまかしてもダメだ。
「…気をつけろ…」
 をちらりと見て、美樹をまた睨む。この意味が分かったらしく、美樹は瞬時に酔いが冷めたようにうなだれた。
「はぁい…」
 いたずら自体が悪いとは言わないが、あまり影響が大きい、問題が起こった時の原因となるようなのは、もはや悪乗りだ。このあたりは、きちんとわきまえておけということ。
「まってくださいぃ…」
 そこで、いきなり変な声が聞こえた。さっきから木田のいびきが聞こえてきたのは気付いていたが、これはまた。どこからか元を探ってみると、ちゃぶ台に持たれるからだった。
「…」
 右堂美樹が黙ってみてる。無表情のまま、黙ってみてる。すると今度は、
「待って下さい、右堂さぁん…」
 甘えた様な、泣き出しそうな声で。相変わらず子供だなぁ、と美樹が微笑んでいたが。
「…っ…」
 その、美樹の後ろから変な息づかいが聞こえたので、慌てて振り向いた。
「…どうしたの、右堂ちゃん?」
 右堂の顔は変哲ない、鉄面皮。笑顔などありもしない。
「…何がだ?」
 すまし顔だ。納得が行かなさそうに美樹はむくれてみるが、ふと小首を傾けたしばらく後、顔一杯の笑みを右堂に見せる。
「別にぃ」
 それじゃあお休みねえ、と続け、そそくさと寝床へ向かって行く美樹。その軽い足取りな後ろ姿を見ながら、右堂
「…変なやつ…」
 と呟いた。
 その次に、私もな。などと言ったかどうかは、誰も聞いていないのでさだかではない。
「今、いきますからぁ」
 の寝言は続く。右堂は立ち上がって、の小さいけど重い体を抱え、寝床へとほおり投げた。たて続けに木田も同じように扱った。
「…」
 しばらくの間、右堂は眠り続ける三人のそばに座り続けていた。それは、木田のいびきと、美樹の変な声と、の歯ぎしりが大きく聞こえてくるまでのことだった。
「いったあ! 何するんですかっ?」
 翌日。三人は頭痛を抱えてベッドに横たわり続けていたのは言うまでもなかった。

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