ある日に。冬物語
22
木田先輩。一つ聞きたいんですけど、今度、大会とかあるんですか?」
 先程男子バレー部が明日試合だから早上がりだとか言っていた。という事は、何らかの大会があるからではないかということだろう。夏も近づいた、そういう時期だし。
「いや。うちの学校、何だかってとこに登録してないらしくて、そういうのは出れないんだ。だから、近くの学校と練習試合だって言ってた」
 ゴン、とカップをちゃぶ台において答える。なるほど、グラス学園はそういう類の大会は出れない部が多いようだ。何だかかわいそうな気もするが、当人達はあまり気にしていなさそう。確かに、試合で勝つばかりが部活動ではないし、練習試合だって試合だから充分。木田先輩も「練習試合では、強いとこにとかも勝ってるから、どうでもいいや」とか言っているし。取り合えず、不満はないらしい。
「そうなんですか。木田先輩の方は、練習試合はないんですか?」
 遠回しに、以前のシューズのことを伺うためにも、尋ねてみた。ぬるくなったカップをくるくる回す
「いや、この間やったばっかりだから、ないぞ。ここんとこは、勝ったり負けたりだな。まあ、オレは正選手じゃないからなあ」
 さすがに、一年生で正選手は難しいらしい。木田先輩は背が低いということもあるし、やっぱり敬遠されるんだろう。いつかルールが変わるから出番はあるかもと言ってはいるが。
木田先輩、出てないんですかあ」
 どうやらシューズの件は、もうどうでもいいらしい。もしかすると、いらぬ心配だったのかもしれない。
「…」
 その時、不意にの左手からカップが差し出された。一体何事か、驚くが、まばたきを一度してから落ち着いてすぐ理解できた。
右堂さん! おかわりならおかわりと言って下さいよぉ」
 カップの底には、ココア跡。もう飲みほしたらしい。もぬるいならすぐに飲んでしまうので、もうそろそろ無くなる所。ここはぐいっと一気に飲みほして、一緒に自分のも入れようと画策。
「あ、オレもオレも!」
 木田先輩がカップを高々と掲げ、うるさい。分かりました、と渋々一緒に用意しようと思った所、美樹もカップを置いて言う。
「あ〜、ミキちゃんが入れたげるよぉ」
 の手元に集まったカップへ手を出す美樹。これはこれはご苦労様ですとばかりに、ははやばやと美樹におかわりを全権委任。いやいや助かりました。
「それではお願いします〜」
「おっけ〜」
 美樹は席を立ち、流しに向かう。その間、右堂は時間を持てあましたらしく、そわそわとのそばに座りっぱなし。はそこをあえて無視し、木田と会話。
「あのう、木田先輩と寮長さんて、仲良いんですか?」
 以前、寮長と話した時、木田を知っている様なことを言っていたのを覚えている。何となく気になって聞いてみた。
寮長? あのエプロンか。別に仲がいいって訳じゃないぞ。ただ、メシをよくサービスしてもらってるだけだ」
 白々しく、こたえる。食事をよく食べるというだけで顔を覚えられているとは、それだけ食するということか。木田先輩らしいや、そう思うだが、自分も同類ということにまでは頭が回っていない。
「それにしてもエプロンはひどいじゃないですか木田先輩」
 もっとましな呼び方を、と提議するも、馬の耳に念仏。
「他に何かあるか? 年がいもなく、でかい派手なリボンとかか?」
 これまたひどい。木田には悪気がなさそうだが、本人が聞いたら怒りそうだ。確かに、もう高校生でもないんだから、とも思うが。
「エプロンでも通じますけど…、見たままじゃないですか。せめてコーヒー好きとか」
 援護するだが、木田はどうでも良さそうだ。
「へ〜、そうなんだ。オレ、コーヒー嫌いだからなあ。苦いし」
 誰も木田先輩の好き嫌いは聞いていない。そりゃあもコーヒーは苦手だが。苦いし。牛乳をたくさん入れれば何とかなるけど。
「…」
 隣の右堂がうんうんとうなずいていることには、は気付かない。
「じゃあ、木田先輩は何が好きなんですか?」
 ここで右堂が何か口を開こうとしていたが、の「右堂さんはココアですけど」という言葉が発せられると、また口を閉じた。
「オレか。オレは水か、スポーツドリンクって言うやつかな」
 何とかサプライとかいうやつ。というのが木田先輩の言だが、それはスポーツ後に飲むものの話ではないかと。まあ、いつもスポーツ後の木田先輩にしてみたら、当然なのか。
「何か、好きな飲み物っていう感じがしないですねえ」
 率直な意見を言ってみたが、木田先輩の返しはこうだ。
「特に思いつかないからな。みたいにオレンジジュースとかって言うのも何だし」
 甘いものもちょっと、という木田先輩。それはいいが、みたいにとはどういうこと。
「それ、どういう意味ですか。そんなにオレンジジュースはダメですか」
 怒る部分をちょっと間違ったが、今更訂正するのも何なので、そのまま。
「いやあ、オレには似合んからなあ、と思って」
 これも率直。おかげでは納得。
「それもそうですねえ」
 また子供扱いされてるかと思った。確かに、オレンジジュースは大人じゃないけど。

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