ある日に。冬物語
16
「許せません! 藤沢君、その暴言、取り消して下さい!」
 藤沢が何か言い返そうとする前に、の右足はすでにふみ込んである。有無を言わさない行動、意外といえば意外な状況、藤沢は驚いたらしく右足を退いた。
「な、何だと…」
 いきなりの仕掛けに対応が遅れた藤沢は、が狙う左腕を逃がすことできず、左半身ごと逃げ遅れてしまう。の両腕は当然、ここを逃すつもりはない。
「はあっ!」
 かけ声と共に右腕が延び、藤沢の逃げ惑う左手首をしっかと、捕らえる。更に右腕でも掴みかかり、風紀委員流捕縛術を仕掛ける。
「くそお!」
 がむしゃらに左腕を下に引いた藤沢の左手首、運良くの手から逃れ、捕縛術から逃れる。関節技で素早く相手の動きを止める、基本中の基本。これで捕まるわけにいかない。
「なんのっ」
 で、これで捕らえられるとは考えていなかった。次の一手をすでに実行に移し、つけいるすきをも与えない。
「ちっ」
 今度は右の二の腕を捕らえに行くに、反撃しようと考える藤沢だが、体勢もままならぬ現状ではそれもできない。あきらめて、かわすことだけを考える。
 結局、後ろに下がることで避けることができた藤沢は、打つ手が一旦無くなった息まくに、自己の主張をはっきりと示すために口を開く。
「何が暴言だって言うんだ!」
 これが言いたかった。やっとの思いで吐き捨てた言葉に、はまた激昂する。
「川下先輩への言葉が、です! こんなやつとか、見下した言い方、ないです!」
 半泣きのは、言いたいこともうまく言えずに、藤沢の納得行かなさそうな目をじっと見た。美樹の、自分の為を思っての行動を、踏みつけにした藤沢に腹が立った。そして、美樹の人格そのものを傷つけるような言葉に。
「取り消すつもりはないね、俺がそう思ってるというのは事実だからな!」
 冷たい視線を感じる。藤沢は、頑固としての、要望というか命令を聞かない。ここで素直に聞き入れるようなやからならば、服装が個人の趣味だと言い張るわけがない。
 そこまでが考えたか知らぬが、今度は胸ポケットに差した風紀委員のペンを手に持った。
「取り消しなさい!」
 もかたくなに、姿勢を崩さない。取り消せ、いやだ。これでは話し合いが通じるべくもない。はこの時、感情的に前に出てしまったことを、ほんのわずかだけ後悔していたが、それよりもずっと強い、捕らえようとする意志があった。
「いやだね!」
 当たり前のように拒む藤沢も、後戻りできなくなった状態かもしれない。それはいいとして、のペンを間違いなく避けるため、の手と踏み込む足に注意する。藤沢は、の持つ風紀委員ペンの怖さを知っている。グラス・オーラの力を封じ込めたペンの先は、ふれた肉体の一部を一時的にマヒさせるという、とんでもない代物ということを。ただ、このペンに関する誓約が重いとは、一般生徒である藤沢は知る由もないが。

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