ある日に。冬物語
14
 川下美樹、中等部一年、風紀委員。校則取り締まりに厳しい、そして勉強熱心な生徒。阿津田も高等部一年だった当時、よく捕まって怒られたとこぼしていたという。それがどういう経緯で今に至ったか、色々あったようだ。風紀取り押さえに厳し過ぎ、同級生や年上の同性生徒達に嫌われてしまった。いつしか彼女の周りに人が消え、流れるように孤独になってしまった。嫌がらせこそ少ない学園であるが、それでも友達一人いない生活は、中学一年生の女の子に、少し辛いものだった。その上に重なってくる、先輩風紀委員からの期待。精神的に疲労がたまり、体の調子までおかしくなってしまう。そして、いつか倒れてしまった。その、倒れてしまった先がたまたま、この阿津田一也の胸だったらしい。
 悩みを一通り聞いた阿津田は、美樹に対して優しく接した。美樹はこの時から、阿津田などの男性に対してだけ心を開くようになった。大したわだかまりはないはずだが、どうしても女性を信じられなくなった美樹は、男性を頼りにして生活を営んでいた。それから風紀委員は、やめざるを得なくなってしまった。
 今は、木田右堂という部屋仲間とは会話はできる所まで、同性恐怖症が治っている。他の女子生徒には相変わらずだが、それでもいつかは打ち解ける日も来るであると、は信じている。現に、達との関わりが持てているのだから。
 そのような話から、美樹のことを川下先輩と、以前風紀委員だったことを知ってから、そう呼ぶようになった。
「とにかく、他の生徒さんに悪い影響を与えるような行為は、しないようにして下さい。阿津田さん、川下先輩」
 二人とも、問題がある。二人とも、大きくうなずく。理解してくれたのであろうか、実は自分達は他に悪い影響を与えていないと思っているだけなのか。
「わっかりましたぁ」
「フッ、安心しなよ、お嬢ちゃん」
 本当に大丈夫か。しかしここは二人を信じなくては話にならない。も大きくうなずいて、納得する。
「そうですか。それではこれからお願いしますね」
 事務的に、やや冷たく突き放したような言い方だが、これが風紀委員のとしての当たり前の反応である。変に仲良さげにしてもおかしいし、居丈高になるのはかなりおかしいことを知っている。だから、どうしてもこんな言い方しかできない。もちろん、美樹阿津田も慣れたもので、一つ頭を下げてからこの場を去って、二人で高等部女子校舎の向こうへ消えていってしまう。どこへ消えて行くかは、やはり謎。これ以降は先輩の風紀委員に任せる、というのが委員会の規則だから見ているしかない。
 「それでは」「じゃあねぇ」と、阿津田美樹も、一言だけ言葉を残して去っていくのを見送ったその後、は視界を校門側へ戻す。風紀委員の任務を続行するのだ。
「さぁて、もうひと頑張り!」
 まだまだ問題生徒は沢山いる。現実に問題となってはいないが、放っておけばいずれ悩みの種となる生徒はいくらでもいる。実は、だって例外ではないのだ。だからこそ自分の気を引き締め、それから周りの気を引き締めていかなくてはならないのだ。
 自分の目指す、理想の学園。そのためにも、しっかりと白い靴で土を踏みしめ、拳を握り締め、口元を強く閉める。そして、いつかのぞかせるであろう太陽、傘となる暗い雲を見あげる。雨が降りそな風が吹く、それでも日の光はもっと向こうで輝き続けている。
「今日も、チェックしますか!」
 誰も一人では孤独で、それが為に道をはずれる。誰もそうならぬように、閉ざされた道を開くように、手を差し伸べる。それが、やっかい者呼ばわりされるような、つまらないお小言でも。
 いつもと変わらない日々だって、人は言うかもしれないだろう。だけど、実は一つ一つと、何かが少しずつどこかへと進んでいるんだ。そう信じて、は一歩一歩、目を凝らして、生徒を一人一人観察する。何かが違う、その一時一時、見逃さないように。みんなの一個一個、地道に改善していくことによって実現する、素直に笑える世界。そんな、の夢。
 黒で染まったはずの雲は、いつの間にか赤く、赤く塗り替えられていた。

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