ある日に。冬物語
11
 さて、本日のグラス学園は、曇り空の下に営まれている。いつも晴れというわけにもいかない、時には雨だって降る。それは、あえて当たり前というべきである。
 天上の太陽が一度も顔を見せない日、その日の昼下がり、いつものように中等部の風紀委員が下校中の中等部の生徒達を見守りながら目を光らせている。
 友達と笑い合いながら校門をくぐる生徒。思いつめたように地面を見つめながら歩く生徒。授業が終わると同時に着替え、グラウンドへ走り出して行った生徒。すれ違う度にあいさつをかわして行く生徒。いろんな生徒がいる。
 何事もない日常、悩みながらも過ぎ行く日々、成長と変化を促す今日と明日、風紀委員としてできる限り守っていきたい。
 風が、吹いた。冷たさが残る、優しい風。季節は景色に色取りを与え、時の流れを暖かさで包み込む。そんな息吹が、短く刈られた黒髪になびかせる。ほんのわずか、揺れる程度に。雲で覆われた空にも似合う、幼き女の子による、少年の夢見る笑顔。
「今日も、無事に過ごせそうですね」
 誰に語りかけたでもない、ただ呟いた。誰に向けた出もない、ただ微笑んだ。
 風紀委員が生徒達を見つめる。生徒達の充実した学園生活を求めて、風紀委員は生徒達を見守る。義務がある、だからこそ、心を鬼にして校則違反に注意を与え、さらには取り締まる権利を背負っている。風紀委員の先輩の、心に残る言葉だ。
 多くの生徒達が、校門を過ぎ、帰路を進んで行った。何事もなかったことに、満足な顔になるがいた。
「これで一段落、終了したようです」
 この言葉は、たまたま近くにいた先輩の風紀委員に、感想として述べた。先輩は、一つうなずき、中等部、高等部の女子校舎へと指さす。
「では、日山君は向こうを頼む。この時間なら大事はないだろうが、気をつけて頼むよ」
 落ち着いた言葉づかいの先輩に、は元気よく答える。
「はい!」
 心地よい返事に、先輩もも気を入れ直す。先輩はただうなずいて、女子校舎へと向かうの小さな背中を頼もしそうに見ていた。
 こんな、暗い曇り空でも、の心だけは晴れ晴れとしていた。何事もない時、それが風紀委員として一番の誇りでもあるからだ。平和ならば風紀委員の意味がないと、生徒は言う。だが、風紀委員の努力なくして、その平和な時というのは手にすることはないのである。なぜならば、今、大きな瞳に映った、くだらなくも風紀を乱す愚かな行為を一つずつ消していき、大きな災いを初めから起こさないようにしているからである。
「そこの生徒さん、降りて下さい」
 グラス学園中等部女子校舎三階、女子更衣室とおぼしき部屋の窓の真下、は立ち止まる。何があるのか、それは一目瞭然、窓に張りついている男子生徒の制服を着た男だ。おしゃれなのかアクセサリを身にまとった彼は、真剣な笑顔ながらよだれを垂らして中をのぞき見ているようだ。中の生徒は気付いてないよう、カーテンが閉まっていることが、窓からのぞき見えることでわかった。

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