ある日に。冬物語

 早足で寮を出、急いで美樹がいる寮の裏へ走る。もちろん、別館へは近寄らずに遠回りだ。のぞきに警戒させないために。せっかくの策が水の泡になってしまうのは、翔人に悪い。
 藤沢美樹も、二人とも元いた場所に立っていたので、ちょっとほっとする。
「遅いよぉ〜ちゃん」
 嬉しそうな美樹。対して、相変わらず無愛想な藤沢。何だか、さっきより機嫌が悪そうだ。何かあったのだろうか。
「すみません〜。遅くなりました〜」
 とりあえず、気にしないことにした。早く準備をしなくては。
「そうだねぇ。ここは目立つから、暗がりに隠れようか〜」
 美樹がもっともな意見。確かに明かりの下、ここにたむろしてると、怪しい。
「それでは移動しましょうか」
 は明かりのない位置まで歩こうとした。あまり別館に近づくと、犯人も警戒するからだ。そこで、藤沢がようやくのように口を開いた。
「俺は表を見張ってる」
 逃げ道をふさぐ、とのこと。
 そう言って、が来た道をそのまま戻ろうと足を向ける。は彼を信じ、黙って行かせることにした。文句をつけると多分、口論になり、時間の無駄になりそうだからだ。その間に取り逃がすかもしれないし。
「さて、こちらも見張りを始めましょうか」
 は気を取り直し、美樹と共に暗がりへと行こうとする。藤沢君が向かった寮の玄関側を除く二面、側面と裏の窓を眺め留意することのできる位置を選んだ。その途中、美樹が何かブツブツと呟き始める。
「…え〜本当〜? …」
 のことなど気にしちゃいない。何だか楽しそうに一人言を営んでいたので、は何だかねたましく、いや騒がしく思う。
「どうしたんですか、川下先輩?」
 何を一人でブツブツと、そう続けようとした所、先に美樹が言葉をたたみかけた。
ちゃん、お風呂場に一人いたんじゃない。ちゃんと調べなくちゃ駄目よぉ」
 一体、何の話だろう。頭が混乱して口を開きっぱなしなところに、美樹が更に続ける。
「翔ちゃんがね、女の人が一人残ってたぞ、っていっているのぉ」
 翔ちゃん? 今、翔ちゃんこと翔人さんは大浴場にいる。どういうことだろうと尋ねようと、不思議そうな表情を見せた。
「え?翔人さんは今…」
 そこまで言うと美樹も感づいたようで、得意気に緑の髪の毛に軽くふれた。

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