ある日に。冬物語

 そこでの翔人の答えは、の心情を読んだかのようなものだった。
「…仕方ない、やってみようか」
 気が進まなさそうに、寮長への通達を求めた。策が策である、寮長の承認無しでは不可能である。
「そ、それでは寮長さんに協力を仰ぎましょう!」
 そうと決まれば、早速行動。翔人をつれ、女子寮へと急いだ。美樹藤沢を置いて行くのはまずいかと思ったが、大事には至らないだろうと考え、さっさと事を進めることにした。
 寮長は食堂で夕食を作っていた。時間が時間、寮生の大半が食事している食堂、手伝い寮生をあっちこっちと指示して忙しい。そんな中に話しかけるのもどうかと思った。
 が、食事を待つ寮生が、なぜかの周りに集まってきた。原因はがつれいている男子生徒、翔人。なかなかの細面、主に高等部の人達が興味を持って寄ってきていた。
「た、助けてくれ〜」
 翔人が女子寮生にもみくちゃにされている隙に、寮長に、作戦について話をしたところ。
「いいですか?」
「誰もいないなら、いいさ。この時間、利用者少ないだろうから、今の内だよ」
 あっさりと承諾してしまう。まあ、寮長が忙し過ぎて手が離せないという理由があるからだろうが、それにしても。ま、いいや。
「それじゃあ行きましょう、翔人さん…」
 寮長と話したわずかの間に、翔人の周りに人だかりができて声が届かない。とにかく人の隙間をかき分け、何とか連れ出すことに。翔人と共に食堂から消えた後は、いつものように食事の戦場と化していた。
 やっとのことで抜け出した翔人は、大浴場へ向かう間、服も髪もぼろぼろになったままでに話しかけた。
「エライ目にあった」
 まさかこんなことになるとは。も済まなさそうな表情で、
「本当ですね」
 と、同意。廊下でも歩く度に騒がれる。男子が珍しい、というよりは、翔人のような美少年型の男子寮生というのが、なかなかいないからだった。女子寮生に人気があるというだけなら、阿津田という女好き男が一番だ。ただし軟派くさくて、否定派も多い。もその一人。どちらにしろ、そんなに興味はない。はどんな人も、ある程度仲良くなってしまえば、そういった異性に関する感情は薄れてしまうからだ。
 それはいいとして、今度はもっとエライ目とやらに会うことになる翔人は今一度、覚悟を確認した。
「本当にいいんですよね、翔人さん」
 あえて確認した所、翔人も諦めたように答える。
「まあ、やってみる価値はあるんじゃないかな」
 こんな変なことを受け入れてくれるとは、いい人だ。そう思う。しかし、翔人にだって下心がないわけではない。堂々と女子寮に侵入できるのだ、何を企んでいるかわからない。でも、そんな風にも見えない。
「とにかく私、中見て誰もいないか見てきます。ちょっと待ってて下さい」
 別館への渡り廊下の途中、が大浴場へ先に駆けて行った。は、ばーっと見て、誰もいないことを確認すると、すぐさま戻ってきた。
 大丈夫です、と言ったようなの口の動きを見る。
「それじゃあ、行ってみるか」
 が両腕で大きな丸を作りながら戻って来ると、翔人も心の準備をして、すれ違いに進んで行った。
「こっちの方は任せて下さ〜い!」
 はここを通行止めにして、すぐに美樹達のもとへ戻り、現れるであろうのぞきを捕まえる準備をしなくては。美樹藤沢も心配だ。

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