ある日に。冬物語

 ところで。
 グラス学園女子寮にて、最近の困ったことといえば、のぞきである。女子寮長は、犯人はある程度目星がついているというが、それでも現行犯で捕まえないと説教もしづらい。ということで、相談してきた冬へ、犯人逮捕を言い渡されることになった。
 今は中等部の生徒が学業を終え、まばらに帰寮していく時刻。部活動や委員会に所属しているものはまだ帰らないものの、それでも多くの生徒達が校門を通り過ぎて行く。グラス学園ではグラス・オーラという力が働いているため、生徒の髪の色がいろいろと変わっている。
 相変わらずエプロン着用の寮長が、食事どきからはずれた朝早くの食堂で、小さな短髪の風紀委員と会話をしていた。
「こんな朝早くからご苦労さんなことだね。風紀委員ってのは、そんなに忙しいもんだったのかい?」
 がらんとした広い食堂の中、調理場から洗い物の音が聞こえる以外は静かなものだ。その辺の椅子に腰かける寮長の、テーブルを間にちょうど対面に立つ、小さな風紀委員。
「いえ、これは風紀委員としてではなく、一寮生としての話なのです」
 度重なるのぞきで、大浴場もおちおち利用できない。被害としては大きくないから放っておかれていたが、このままではいけないのではないか、そういう内容の寮長への相談であった。
 寮長としては、寮に関わる人手が圧倒的に足りないのを理由に、目をつぶっていた問題である。何しろ寮生からの手伝いをのぞけば、寮長寮長の祖父母の二人でこの寮を切り持っているのだ。これではのぞき対策どころではない。
 しかし、学園内だけでも風紀委員会の手が回らないのに、寮のことまで任せなくてもいいだろう。寮長はそう思うが、風紀委員の言い分とは食い違う。
 寮内では、ただの寮生。校則違反などを逐一、注意するわけではありません。そんな、普通の寮生として立ち上がろうということなのです。
 寮長は彼女の意見に二度、うなずくと、立ち上がって決意をした。
「よし、のぞき対策について一つ、やってみるか」
 そう言って、寮長は笑顔を見せる風紀委員の小さな肩を、ポン、と叩いた。
 言い合いを続けている内に、いつの間にか周りの下校中生徒達からだんだんと離れて行く。もちろん、周囲の生徒達は関係ないとばかりに、遠巻きに眺めてさっさと歩き去って行く。次第に二人は人ごみから孤立し、立ち木の向こう、中等部の女子校舎と壁の間へと詰め寄って行く。

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