春の日に。冬物語

「お〜い、何やってるんだ、〜!」
 雷でも落ちたかのようなでかい声が、風紀委員の日山の頭にとどろいた。あまりの声の大きさに、二人から離れたグラス学園校門にいた下校中の生徒達も、驚いて振り向いた程だ。慌てて頭上に目をやった日山 
「き、木田先輩!」
 まぶたを見開いて、頭上で手を降るジャージ姿の生徒に戸惑う。わずか数秒の隙のつもりだったが、これが仇となり、前方にあるはずの存在が感じられなくなった。もう一度あわてて藤沢を見るも、そこには影も形もなく、ただ壁が向こうに見えるだけだった。どこに逃げたかと首を振りつつ見て回るが、暇つぶしに見物していたらしい生徒達が、つまらなさそうにあくびしていた姿くらいしか確認できなかった。
 逃げられたっ
 握る拳に力が入る。が悔しそうに苦い薬でも飲んだような顔をしていると、上から、今度は大きな物体が音を立てて勢いよく落下してきた。
、あぶねえぜ!」
 上空から吹きつける突風から危機感を感じ、素早く後方に飛んで校舎の壁に背中を貼りつける。その直後に、の目の前に黒い物が着地する。危うく踏みつぶされるところだった。
「ひえええっ」
 怖がって、まともな言葉も出ない。その裏腹に、黒いジャージを着込んだ茶色い、くせ毛のポニーテールは立ち上がって振り返り、豪快に笑いながらの肩をたたいた。
「いやあ、悪い悪い! ハッハッハ!」
 こやつも類にもれず眼鏡をかけているが、どうも似合っていない。邪魔くさいからまとめただけの髪、動き易さのためのジャージ、使い込んでぼろぼろのくつなど、はたから見ただけでも眼鏡がもたらす知的などの印象とは程遠い。
「んもう、悪い悪いじゃないでしょう木田先輩! いくらここがグラス学園だからって、無茶しないで下さい。ケガしたらどうするんですか?」
 怒っとるは、太めの眉毛をつり上げて木田を上目で睨みつける。すると木田の肩から手を離して一歩後ずさる。
「そんなに怒るなよ〜。何とも無いんだし」
 適当に受け流そうとする木田。そんなだから、にため息をつかれる。
「はあ〜。全く、お陰で藤沢君も逃がしちゃうし…木田先輩こそ何の用ですかっ?」
 当たり前のように機嫌を損ねる。実に機嫌が悪い。近づきがたい雰囲気を醸し出しているのにもかかわらず、木田はあっけらかんとに答えた。
「おう、それそれ。、オレのシューズ知らないか? ほらあの、赤いラインの入った白い奴」
 困ったそぶりも見せず気軽に言うものだから、はついつい、ふてくされながら答えてしまう。
「知りませんよ。なんで私に聞くんですか?」
 つれない態度に、木田もさすがに困った表情を見せる。
「いや、同部屋のよしみだろ〜」
 確かに木田は、グラス学園女子寮にて同じ部屋の住人である。しかし、知らないものは知らない。それに、寮は四人部屋なので他の人が知っている可能性もあるだろう。
「だったら、川下先輩にでも聞いてみたらどうです?」
 言葉は悪いが、言い方は先程より穏やかになっている。困っているようなので力になりたいのはやまやまだが、木田先輩はしょっちゅうあれが無いこれが無いなどとに聞くので、どうしても冷たい対応をしてしまう。
「ああ、さっき聞いたところだよ。だから中等部の校舎にいたんじゃないか」
 そう言えば木田先輩は今年から高等部の生徒になったのだった。それが中等部の校舎にいるのは確かに不自然。すっかり忘れていた。
「そうですか…。それじゃあ右堂さん…が知ってる訳ないし」
 自問自答になってしまったが、木田も同意したようにうなずく。それもそのはず、右堂は滅多に寮に帰ってこないからだ。彼女はさる事情により生徒会長の護衛を任されているらしく、常日頃から生徒会室にて待機しているのだそうだ。
も知らないか。何なら、いいか」
 あっさりと諦めてしまったようだ。木田は仕方なさそうな顔で、の前からきびすを返し、体育館のある方角へと向かっていった。
 わざわざ聞きに来て、どうでも良さそうな態度。それは木田先輩の性分だからいいとして、には一つ、許せないものがあった。
「あ、木田先輩! 学園内でのジャージの着用は極力避けるようにと、何度注意しましたかっ?」
 怒号も、木田の耳にはとどく術も無い。背中を向けながら右手を降って走り去っていく木田のジャージ姿は、まったくもって困ったものだった。
 ホントにもう、木田先輩は制服があるのを忘れてるんじゃ無いかと思う。
 藤沢君も裸の上に制服の上着だけなんて、下に何か着るって考えないのかな。
 全く、木田先輩にも藤沢君にも困ったものだ。
「はあ」
 力ないため息を吐く

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