春の日に。冬物語

 グラス学園校門。全ての学園生徒がここを通ざるをえないため、目を光らせた風紀委員が必ずといっていい程、滞在している。少なくとも、通学時間でない夜間以外は。中等部の生徒であるは、その中で、登校前の朝と下校後の夕方を担当している。
 今は中等部の生徒が学業を終え、まばらに帰寮していく時刻。部活動や委員会に所属しているものはまだ帰らないものの、それでも多くの生徒達が校門を通り過ぎて行く。グラス学園ではグラス・オーラという力が働いているため、生徒の髪の色がいろいろと変わっている。
 色とりどりの頭がまとまって、校門の向こうの男子寮、女子寮へと向かって行く。赤とか緑とか、けったいな色をした頭の生徒が多いが、慣れれば気にならない。
 その、中等部の生徒達の集団の中、ちょっとしたいざこざが見られた。
「またお前か。何だよ、うるさいな」
「何だ、はないでしょう! 今日もまた、制服をきちんと着ないで」
 中等部の生徒の中でも背が低い、男女一人ずつの生徒が、人だかりのはずれで口論していた。グラス学園だからして二人とも、当然、眼鏡をかけている。
「いいだろう、俺の趣味なんだから」
 特徴は純白のハチマキ。男子生徒にしては長い髪を、わざとやぼったくぼさぼさにしている。普通にブレザーの制服を着こなしている、ように見えるが中に着るはずのワイシャツがない。もちろん、ネクタイもつけていないし、肌着の着用もない。
「趣味の話ではないです! 上着の下にワイシャツも何も着用してない、校則違反に限度が有りますよ。第一、風邪をひきます」
 女子生徒の方は、太めの眉毛に丸い顔。スカートがなければ男子生徒に間違えそうな、寝癖のこる短い髪に幼児体型。それより何より、左腕の風紀委員の腕章が光っている。
「俺が風邪ひくなんて、お前には関係ないだろ」
「わざわざ、ひかなくてもいいでしょう?」
 言い合いを続けている内に、いつの間にか周りの下校中生徒達からだんだんと離れて行く。もちろん、周囲の生徒達は関係ないとばかりに、遠巻きに眺めてさっさと歩き去って行く。次第に二人は人ごみから孤立し、立ち木の向こう、中等部の女子校舎と壁の間へと詰め寄って行く。
 そうして人だかりから遠ざかり、お互いある程度は動き回れそうな位置まで来ると、風紀委員の女子生徒が仕掛けに走った。
藤沢君、今日こそは、わかってもらいます!」
 語調を強め、男子生徒に一気に手を延ばすと、ハチマキをなびかせて迎え撃つ。
「しつこいな。俺の勝手だといっているだろ!」
 風紀委員が延ばした小さな手は、右に流れる藤沢のハチマキすらとらえられず、大きく空を切った。いきおい、前のめりになりかけるが、すぐに態勢を整える。
「くっ…」
 姿を見失わまいと、短い髪がかかった頭を上げる風紀委員。小さい顔に反した大きな眼鏡の奥、その瞳には、余裕とも取れる冷静な力強いまなざしが写った。
「日山だったよな…、お前に俺は捕らえられねえ」
 挑発か、感想か。どちらでもいい、風紀委員の日山はすぐに藤沢に足を向ける。
「だからどうだって言うのっ」
 頭に血が上ったのか、先程より荒い口調になっている。日山の大声を聞いて、藤沢は見えないくらいに、わずかに両肩を細かに震わせる。しかし、表情は自信に満ちたもののままだった。
「どうもしない!」
 彼、藤沢の視線のように、力強い答えだ。これは単なる自信ではないようだ。藤沢は、捕まるつもりがないから、はっきりと言いきれたのだ。相手が高等部の風紀委員でも、多分、同じ目で同じ答えを放つだろう。もし、勝ち目のない相手だとしても。
 強気な生徒だ、そんな感想を思い浮かべるも相当、負けん気が強い。
 …
 ここに来て、二人の足が止まった。
 藤沢の気合いと、日山の意志がぶつかりあっている。とでも言うのだろうか。見えない力で両者の間に大きな亀裂が走っているようだ。グラス・オーラでも無しに。
 お互いが目を合わせて構えてまま微動だにしなくなった、その時、だった。

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